「さぁ、そろそろ先を急ごうか」ゾルダの二日酔い(本人は否定しているけど)がひどいのもあって、休憩をしていた。少し休憩したこともあって、ゾルダもだいぶ回復してきたみたいだけど……「ふぅわ~~」「よう、寝たわ」「起きたようだね、ゾルダ」「少し寝たら、頭が痛いのも落ち着いてきたぞ」「これなら、洞窟に着くころには、全開になっているから安心しろ」「よかった」「期待しているよ」寝ていたゾルダが起きてきたようだ。「あーあ、こんなところで休憩しなければもっと早く着いたのに」フォルトナ、そんな刺激することを言わなくても……「小娘の娘!」「お前、ワシに文句があるのか?」「文句はないよ」「事実を言ったまでだよー」事実でも刺激はするだろう。「まぁまぁ」「ゾルダもフォルトナも今はそんなこと言い合わなくても」「休憩して遅れたのも確かだけど、ゾルダが回復すればさらに早く進むことが出来るから」「たぶん、これでいってこいだ」「そういうものかなー」「さすがわかっておるな、おぬし」急がば回れだし、この休憩が吉と出ると言い聞かせよう。これでしっかりと休んだし、先に進んでいけるだろう。それからゾルダの調子も良くなったこともあり、順調に進めることが出来た。ただ北の洞窟に向かう道はそれなりに険しく、時間のかかるものだった。それでも、確実に洞窟へ向けて進んでいけた。しばらく進んでいくとさらに険しい山道へと差し掛かった。この山の中腹に北の洞窟があるらしい。「あともう少しかなー」「いつもこんな道を登っていったのか、フォルトナ」「そうだねー」「でもいつもは風魔法で移動しているから、そこまでではないよ」「えっ、そうなの?」「俺、まだ移動魔法は覚えてないからな」レベルもそれなりに上がったけど、なんか移動が楽になりそうなものは一向に覚えない。ゾルダ曰く、それぞれの特性があるらしく、俺にはそういう系統の魔法は高いレベルに設定されているのではないかとのこと。でも、やっぱり楽はしたいなとは思う。「俺も早く移動魔法を覚えたいよ」「この山道を登っていくのはきついよ」「ボクも付き合っているんだから、そう言わないで」「そうじゃ、そうじゃ」「ワシも付き合っているんだからのぅ」いや、ゾルダは浮いているだろう。楽しやがって。「おつきの人は飛んでいるじ
あやつは相変わらずとろいのぅ。こんなトロイトごときに苦戦しよって。まぁ、でも少しは傷つけられるようになったのは成長しておるのだろう。もう少しへっぴり腰が直れば、致命的な傷もつけられるようにはなるかもな。まだまだ強くなってもらわねばならぬのに。これぐらいの相手なら、一瞬で終わらせてほしいぞ。「さぁ、遊びは終いじゃ。 とっとと終わらせるぞ」興奮しているトロイトの前へと進んでみた。「ブホ、ブギッ」あれだけ興奮しておったら視界が狭くなるのぅ。真正面しかみておらんわ。「ブホブホ言いながら興奮するな。 まずは落ち着け」トロイトに向けてそう言ってみるが……「ブモブモー」変わらず怒り狂っておるようじゃ。「まぁ、そんなこと言っても通じんか。 ワシにとってはこのまま興奮していてもらってもかまわんがのぅ」トロイトは確か地属性だったかのぅ。相性からすると水属性なのだが……「さてと…… 普通なら相性を考えて、水の魔法を使うのじゃが……」あやつも力をつけているから、ワシの力もだいぶ……これならどの属性でも大丈夫じゃろ。「すぐに終わらせてやるぞ」トロイトに対して見えを切ってみたのじゃが……「ブロロロロー、ブモブモブモブモー」余計興奮させてしまったようだのぅ。これが本当の猪突猛進ってやつかのぅ。勢いよくこちらに向かってきた。「あーあーあー。 いやだのぅ。 力任せに来る獣は……」ワシの目の前で突進してきたトロイト。顔の前にさっと手を伸ばすと、ビックリしたのかトロイトの動きが止まった。「何か感じたか。 これを感じることが出来たのであれば、まぁ及第点じゃ。 じゃが、動きを止めたらいかんぞ、お前」ワシの魔力に圧倒されたのか、怯えながら後ずさりをし始めたぞ。「もう、遅いわ。 闇の炎(ブラックフレイム)」黒い炎が手のひらからほとばしる。いつもより力が溢れている感じがするのぅ。炎もいつもより力強くでているようだ。そしてトロイトが黒い炎に包まれる。「ブフ、ブブフ……」炎で燃え盛りながらもさらに後ずさりして逃げようとしておるわ。「ほほぅ。 さすがヌシと言われるだけあるのぅ。 この一撃だけでは燃やしきれんか」結構な力で放ったと思ったのじゃが……まだまだ完全復活ではなさそうじゃのぅ。「それではもう少し放つかのぅ…
何、あの魔法。あんなでかいイノシシを焼き尽くしちゃったよー。どう見てもおかしいでしょ、あの力。おつきの人はいったい何なの?何者なの?あんなめっちゃ強い人を従えているアグリって……もしかして……もっと強いの?さっきはあまりダメージ与えられていなかったみたいだけどー。もしかしてカモフラージュ?おつきの人に花を持たせた?なんか頭の中がグルグルするよー。どう接していいかわかんなくなっちゃったー。今まで『小娘の娘』って言われてムカついたから、言い返していたけど、大丈夫だったかな。「おい、小娘の娘!」急にゾルダがボクを呼ぶ。「はっ、はいっ」思わず声が上ずる。「さっきからかなり静かだが、何かあったのか? 心ここにあらずって感じじゃぞ」そりゃー、あんなの見せられれば心はどこかに行っちゃうよー「な……なんでもないよー、ゾルダ……」あれ?そういえば、呼び捨てでいいのかな?呼び捨てでも怒られるかなー「ん? 何故かさっきから、ワシの事を名前で呼んでおるのぅ。 『おつきの人』とは言わないのか?」もう『おつきの人』なんてもう言えないよー。そんなこと言ったら何されるかわからないよー。「いや、あの、その……」ちょっとしどろもどろになっちゃった。なんて答えよう。「なんかしおらしいのぅ。 意固地になって、『おつきの人』と言っておったのに。 なんだ、もう終わりか、つまらんのぅ」ゾルダがボクを煽ってくるんだけど……「も、もう意地を張るのを止めただけですー。 こ……これからは、名前で呼んであげるー」ちょっと強気に出ちゃったけど、大丈夫かなー。「ワシは変えんぞ、『小娘の娘』は『小娘の娘』じゃからのぅ」ちょっとムカつくけど、あれだけの強さを見せつけられると逆らえないよ。もう好きにすればいいさ。「も、もうボクのことは好きに呼んでいいよ、ゾルダ……様……」あっ、思わず『様』までつけちゃったよー。ゾルダに聞こえてなければいいけどなー。「おい、お前!」ビクッとなりながら、ゾルダの顔色をうかがう。「『様』まではつけんでもいいぞ。 あやつからも呼び捨てだし、『ゾルダ』でよいぞ」「……わかったよー」やっぱり『様』まで聞こえていたんだ。でも呼び捨てで良かったんだー。さっきは呼び捨てで呼んで大丈夫かって思ったけど、そこは気に
洞窟の最深部--開けた広間のような場所の入口についた俺たちは中の様子を伺った。広がった空間の中心に祠が見える。周りには魔物の姿は見えなかった。安心したのか気が逸ったのかはわからないが、フォルトナは祠に向けて走りはじめていた。「フォルトナ、待て」と声をかけた瞬間に、上の方から羽の音が聞こえてきた。「うわー」ズドーンと地面を叩きつける音がして、フォルトナが倒れる。砂埃が舞い、辺りの視界が遮られる。どうやらフォルトナに覆いかぶさるように魔物が上から降りてきたようだ。「大丈夫か、フォルトナ!」大きな声で叫ぶ。「ううう……」微かにフォルトナのうめき声が聞こえてくるも、はっきりとした返事が返ってこない。どうやら気を失っているようだ。しばらくすると砂埃が落ち着き、徐々に魔物の姿が現れてきた。双頭の犬の姿をしており、背には翼、そこから尻尾にかけては蛇が生えていた。「お前は……」姿が徐々に見えてきたところで、ゾルダが目を見開き、声を発した。「誰じゃったかのぅ……」えーっと……先日ゾルダが頭を悩まして考えようとした魔物じゃないのかな。あれほど悩んでいたのに見ても分からないなら、考えてもわからないだろう。つい苦笑いをしてしまう。「えっ、ゾルダは知っているんじゃないの?」「ワシは知らんぞ、こんなやつ」「知らんのかーい」思わずツッコミを入れてしまう。「そこで何をごちゃごちゃ話している」低い声が魔物から聞こえてくる。「我の名はシエロ。 オルトロスのシエロだ。 覚えておけ」名前付きの魔物なんて初めてじゃないか。今まで戦ってきた魔物は種族しかなかったし。するとゾルダが、「おー、そうじゃったそうじゃった。 確かにオルトロスという種族は聞いた気がするのぅ。 名前までは知らんがのぅ」あの……そんなに煽るようなことを言わなくてもいいんだけど……「ん? お前は先代の腰抜け魔王ではないか。 ゼド様からは、勇者が怖くて逃げて居なくなったと聞いたが……」そっちも煽り返すのか……「うぁん? 誰が逃げたじゃと!」ほらやっぱりゾルダがキレるじゃん。早々と魔法を打ち出す準備をしている。「ゾルダ、ちょっと待って。 あの魔物の下にはフォルトナがいるんだから。 挑発に乗っちゃダメだって」「おー、そうじゃったそうじゃった。
しかし毎回毎回あやつはちまちまちまちまと……多少力はついているようだが、まだまだだのうぅ。「さてと…… おい、シエロとやら」あやつと交代したところで……えーっと、シエロと言ったかのぅ。あのオルトロスという種族のやつは。そいつに言葉を向けてみたのじゃ。「なんだ」「グリズリーはお前が差し向けたのか?」ちと疑問に感じたからのぅ。シエロとやらに確認してみた。「我が差し向けていた。 村の結界を解くためにな。 それがどうした」こいつはベラベラと良く内情をしゃべる奴じゃのぅ。その辺りに頭の悪さが出ておる。「そうか…… まぁ、それはそれとして…… お前の恰好だがのう」どうしても気になってしょうがなかったのじゃ。「グリズリーは関係なくないか? ウォーウルフは百歩譲って、その顔やら体でだな」本当は狼と犬で違うのだがのぅ。「サーペントはその背中におるのでいいとして…… やっぱり、グリズリーはどこにもおらんぞ、お前の中に」シエロとやらはワシの言葉にイラついたのか大きな声でワシの話を遮ってきおった。「そんなこと、どうでもいいだろう!」いいや。ワシにとってはどうでもいいことではないのだがのぅ。「グリズリーというより、翼があるのだから、なんか鳥かなんかじゃろ。 そうでなければ、ワシは納得ができーん」「ゾルダ…… そこにこだわるの?」あやつが何か呆れ顔でこちらを見ている。いやいや、ここは呆れるところではないぞ。「ここは凄く大事なことじゃからのぅ。 だって、まともに考えたら、ここは体の一部は熊じゃろ。 もっと言ったら、犬ではなく狼じゃろ」これだけいろいろなものが混ざっておったら、配下が混ざったようになるじゃろ。それが違うのがどうにも解せん。「いやー、別にそこはどうでもいいんじゃないかな。 戦う前に確認が必要な所だった?」あやつがどうでもいい口ぶりでワシの言葉を否定してきおった。「ワシにとっては重要じゃ! 戦う前に確認しておかないといかんのじゃ。 だって倒してからは確認出来ないからのぅ」「おい、そこの二人! 我を無視して何をごちゃごちゃ話している」シエロとやらが何かキレておる。ワシはあやつと大事な話をしておるのに。「お前もお前じゃ。 なんで熊を体につけてないのじゃ」「なんでと言われてもな……
勇者様は北の洞窟へ向かわれていますが、無事着いたでしょうかね……山のヌシもいると噂の山の中ですが、そう滅多には出てこないはずです。もし仮に出てきたとしても勇者様ならすぐに撃退されるでしょう。うふふふふふ……って、また勇者様のことを考えてしまいました。こちらはこちらで勇者様が取り戻していただいた祠を直さないといけません。「カルム、カルムはいますか?」「はっ、なんでしょうか、アウラ様」「あなたのお友達にお手伝いをお願いしたいの。 北西部の森と北東部の丘の修復とこの風の水晶の設置をお願いしてくださいますか?」「はっ、承知しました」「あと、それが終わったら私と一緒に南の森の祠の修復を手伝ってくださいね」「はっ。 しばしお待ちを」カルムは私の前からさっと姿を消していきました。まぁ、カルムのお友達もしっかりとした人ばかりなので、仕事も早いでしょう。私は南の森へ行く準備でもしましょう。どのくらい修理しないといけないのかはわかりませんが……まぁ、森ですし資材は現地で調達すればいいでしょう。風の水晶は忘れずに持っていかないとですね~。「アウラ様、ただいま戻りました。 わが友に連絡し、手配を完了しております」あら、さすがに早いわね。早速戻ってきましたね。「ありがとう、カルム。 それでは私たちも向かいましょうか」「はっ」出かける準備が完了した私たちは南の森へ向かいました。勇者様がウォーウルフキングを倒していただいたおかげで、魔物もあまり居ませんね~。「そういえば、カルム。 こうやって村の外へ出るのは久しぶりですね」森の空気を吸いながら祠の場所を目指しながら、カルムに話しかけます。「はっ。 アウラ様が村の長になられてからは、あまり出て行かれていないかと」カルムは相変わらず几帳面というか真面目というか……「そうね。 長の仕事はそれなりに大変でしたからね。 以前のように自由にはいきませんね」長に就任してからは、村の内政にかかりっきりでした。「カルムたちと一緒に冒険に出ていたことろが懐かしいわ。 それと…… 誰もいないところでは、前と同じように話していただけませんか」ふと昔のことを思い出し、カルムに無茶ぶりをしてみました。「しかし…… 今は長ですから、そうやすやすと……」やはりカルムは真面目ですので、そう
「ううううっ……」何か遠くから声が聞こえるような気がするなー。なんだろうー。「……ル……ナ」「フォ……ト……」「フォルトナ、大丈夫か?」アグリの声がはっきりと聞こえた。ハッとして目が覚めた。ボクはいったい何をしていたんだっけ……「たしか、洞窟の入口まで来て…… 祠を見つけて、誰もいないから走っていったら……」覚えていることを順番に話していると……「おう、そうじゃそうじゃ。 その後シエロとやらに踏みつけられたんじゃ、小娘の娘」ゾルダがニヤニヤしながら、ボクの顔を見てきた。あっ、そうだったー。誰もいないと思って油断していたら、魔物に襲われたんだっけ。「そっ、それでその魔物は?」「ん? あれを見てみろ」洞窟に入った時にはなかった真っ黒な像みたいなのが立っていた。あれはいったい……「あれがシエロとやらじゃ」「えーっ」「見ての通り、もうとっくに倒したのじゃ。 ワシ……じゃなくて…… 今回はあやつがじゃ」ボクが気絶している間に倒しちゃったのか―アグリが倒したって言っているけど、今回もゾルダでしょ。真の勇者はゾルダなんだから。※注 フォルトナはゾルダが勇者でアグリが勇者の影武者だと思い込んでいます。でもなんか周りをよく見ると氷が一面にはっている。「うーっ、なんか寒いよー」体がブルブル震えだす。そりゃ、寒いわけだ。「入ってきたとき、こんなんだったけ?」「えっと…… どう説明すればいいかわからないんだけど…… 戦いの最中にこうなっちゃって……」アグリが魔物との戦いについて話し始めた。魔物はオルトロスで、名前はシエロと言うらしい。ボクが踏みつけられて、そこで気を失ってしまったらしい。そのまま人質にとられていたみたい。「慌ててつい出て行っちゃったからなー」「仕方ないよ、フォルトナ。 俺も魔物が上にいるとは思わなかったし」その後、アグリとゾルダが連携して、助け出してくれたらしい。人質を助けられた、怒り狂ったシエロが洞窟内を氷まみれにして危なかったけど……最終的にはなんとか倒せたらしい。「ふーん、そうなんだー でも、倒せたみたいなら良かったねー」「小娘の娘が捕まらなかったら、もっと楽に倒せたものを」「そうだよ、フォルトナ。 魔物がいるかもってところに来ているんだから、気をつけないと」
北の洞窟ではいろいろあったけど、とりあえずは役目は果たせたかな。この後は、どうすればいいんだっけ……王様への報告をしにいけばいいのかな。村へ帰る道中は、ひと仕事終えたこともあり、気分も楽になっていた。ゾルダは相変わらずだし、フォルトナもなんだかんだ言って元気だし。それに……全員無事に帰れることは何よりだ。しかし、ゾルダがブチギレした所為で、結局は魔王たちの目的までは聞き出せなかった。ブチギレて無くても、あのシエロの賢さじゃ……まぁ、わかってなかったかな。思い出しながら、苦笑いする。分かったのは何かをやるために魔王が動いていること。それと、先陣でクロウって言う四天王が動いていることかな。ゾルダは全然そのクロウってやつを知らなかったみたいだけど……そのことは、道中、フォルトナが寝ているときに、それとなくゾルダに聞いてみた。でもやっぱり覚えていないらしい。現魔王のゼドと当時の四天王以外はあまり接点はなかったらしく……『そんなこと言われても、覚えておらん』と言われ、一蹴された。ゾルダの記憶力も本当にいいのか悪いのかよくわからない。封印されていたって言っていたけど、その影響もあるのかな。そんなことを考えながら、村へ向かっていた。しばらくすると、フォルトナが大きな声を出した。「ほら、アグリ、シルフィーネ村が見えてきたー やっと帰れたねー この村がやっぱり落ち着くなー」フォルトナは無邪気に笑い、村へと走っていく。一方、ゾルダも……「今晩は、いい酒が飲めそうじゃ。 しばらく飲んでないからのぅ」やっぱりはやく酒が飲みたいらしい。「先にアウラさんに報告してからな」そして、シルフィーネ村へ着くとすぐにアウラさんの屋敷へと向かった。屋敷の前にはアウラさんとカルムの姿があった。「アウラさん、ただいま戻りました」「あら、勇者様。 さすがお帰りが早いですね。 首尾よく行きましたか? フォルトナはご迷惑をおかけしていませんでしたか?」矢継ぎ早に質問がくる。「えっと、そうですね…… 北の洞窟にいた魔物は倒すことが出来ました」アウラは俺の報告に笑顔で応える。「はい、勇者様であれば当然のこと。 そこまでは気にしてませんでしたよ」結構大変だったんだけどな……まぁ、それだけ信頼してくれている証でもあるんだが……「
「危ない!」思わず声を出し、体が反応してしまった。気づけばマリーの前に立ち、氷壁の飛竜の攻撃を受け止めていた。マリーはあっけにとられた顔をしている。「うりゃーーーー」さすがにアルゲオの攻撃は重たい。なんとか受け止めて弾き返したが、まだ手がジンジンとする。さて、この後どうするかな……マリーの力はたぶんもっと凄いのだろう。俺よりか遥かに。ただ前にゾルダもそうだったけど、何かしらが原因で力を出し切れない状態なのだろう。力を取り戻せるようになるまでは、俺もサポートしないと。ゾルダに一喝されたマリーはゾルダの下へと走っていった。涙がこぼれていたようだけど、力が出せないことがよっぽど堪えたのだろう。考えなしにアルゲオの前に立ったけど、どうしたものかな。さっきの感じだと、攻撃はなんとか受け止められそうだけど……俺の力でアルゲオは倒せるだろうか……手伝わせてよと見得を切った手前、やり切らないとな。思わず苦笑いになる。「おぬし、そいつを倒せるのか? ワシはいつでも準備万端じゃぞ」ゾルダはニヤリと笑いながら俺に言った。「やるだけやってみるさ」そう言うと俺は剣を構えて、アルゲオに向かっていった。「グォッーーーーーー」再び吠えるアルゲオ。そして翼を振り切ってきた。「ガーン」重い一手が剣を捉える。「ぐはっ」さっきも受けたけどかなり重いな。アルゲオの重みが一気に乗っかってくる。さらにアルゲオが攻撃をしかけてくる。翼をやみくもに振り回してくるが、すべて剣で受け止める。手数が多くてなかなかこちらからは攻撃が仕掛けられない。「大丈夫か、おぬし 受けてるだけでは倒せんぞ」マリーを抱きしめながら、俺に対しては煽りをいれるゾルダ。そんなことは俺でもわかっている。でも受けるので手いっぱいで、反撃が出来ない。「言われなくてもわかっているよ」前の俺なら、この攻撃も受け止められなかったのかもしれないが、なんとか受け止められている。そういう意味では成長出来ていると実感が出来る。でもここでは、もう一歩先、反撃できる力が欲しい。直接のダメージはないもののジリジリと追い詰められていく。やっぱり俺ではダメなのか。もっともっと強くならないと……力が、力が欲しい……そう強く願う。その時だった。剣と身に着けている兜が光だし共鳴を
「なんだ! あの大きいドラゴンは?」あいつが大きな声を出す。そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。 氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。「グォーーーーーー」氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。「さてと…… ワシの出番じゃのぅ」ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。「ん? なんじゃ、マリー。 お前がやるというのか……」ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。「ねぇ、お願い、ねえさま。 せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。「うーん。 仕方ないのぅ。 マリーに任せよう」マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。ねえさまにいいところを見せないとね。「ねえさま、ありがとう」ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。安心してマリーに任せてね。「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。 マリーが相手しますわ。 かかってらっしゃい」氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。「ガォーーーーーー」そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。「それだけしか能がないの? このドラゴンさんは。 それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」た
しかし、人というのは面倒じゃのぅ。いろいろ頼んだり頼まれたり。己の事だけやっておればそれでいいのではないか。あやつがいろいろと頼まれておるのを見ていると、そう感じたりするのじゃが……「のぅ、おぬし。 大変じゃのぅ。 いろいろと厄介ごとを引き受けて。 ワシじゃったらそんなこと聞かんがのぅ」次の目的地に向かう道すがら、あやつに問う。「そもそもそれが俺がここに呼び出された理由でもあるし…… 確かに何でもかんでもとは思うことはあるけど、 困っている人は放っておけないよ」あやつもあやつなりに考えるところはあるようじゃな。それでも引き受けておるところをみると、人がいいのじゃろぅ。それか、よっぽどのバカじゃ。「まぁ、ワシはゼドをぶっ潰せればいいし、 強い奴らとも相まみえることが出来ればいいんじゃがのぅ」長い間外に出れなかったのもあって、ゆっくりと外の世界を満喫したいとは思う。そうは思うのじゃが……「とはいえ、早くゼドをぶっ潰したいので、先を急がんかのぅ」とあやつを急かしてみる。しかし、あやつは、「急いで行ったら、俺が死ぬよ。 確かにゾルダは強いけど、俺はそんなに急に強くはなれないし、死んだら困るのはゾルダだろ」と正論を言ってくる。おぬしが弱いのはわかりきっておる。だから鍛えてきたのじゃが……確かにゼドたちと戦うには、まだ足りんやもしれぬ。ただ出会った頃に比べたら格段には成長しておるがのぅ。「わかった、わかった。 おぬしに死なれては、また剣の中じゃ。 おぬしのペースでいいのじゃが、ワシら気持ちもわかってくれ」急いても仕方ないので、しばらくはおぬしに付き合っていくしかあるまい。ゼドのところに行くまではのんびり構えておくかのぅ。そんな話をしながら、ワシらは砂漠を超えて、問題の山のふもとに到着した。「なんだか急に寒くなってきましたわ。 ねえさま、寒いですわ」マリーの奴はそう言うとワシにぴったりとくっついてくる。「今まで暑かったのになー 急に天気が変わり過ぎだよー」小娘の娘も寒さに震えだしてきたようだ。山頂の方を眺めると、雲で覆われて何も見えないのぅ。少し上の方を見ると一面が白く覆われておる。「いつもはこんな天気じゃないのかな。 これが異常気象ってやつなのかな」あやつも山を眺めながらそう言っておった
昨晩はなんかすごく疲れていた。宿についてベッドの上で横になってからの記憶がない。ゾルダやマリーが俺の部屋でなんか話しているような気がしたが……朝になりベッドから起き上がると、部屋は静けさが漂っていた。ゾルダたち3人は自分たちの部屋に戻ったのだろうか。寝ぼけまなこをこすりながら、昨日デシエルトさんが言っていたことを思い出す。『明日落ち着いたらでいいんだ。 昼でも食べながら、今の状況について話をさせてほしい。 国王様からも話が来ているのでな』確か、そんなことを話していたと思う。さて……今はどのくらいの時間帯だろう。閉まっている窓を開けると、まぶしい日差しが入り込む。人々は街を行き来し、活気にあふれていた。まだ建物の修復が終わっていないところが多いためか、その作業に追われている人たちもいた。空を見上げると……日は高く昇っている。…………「あーっっっっっっっっっっっ」デシエルトさんとの約束の時間が……全身から血の気の引くのを感じた。一気に目が覚める。バタバタしながら出かける準備をする。落ち着けと落ち着けと自分に言い聞かせながら。準備が終わると、俺は部屋を出てゾルダたちを呼びに行った。先日はここでノックをしてすぐ扉を開けて大変だった。いわゆるアニメや漫画のお約束シーンのような出来事だった。さすがに今日は大丈夫だろうとは思うが、ここは慎重に。慌てずノックだけして、話をしよう。「コンコン」「俺だ。アグリだ」すると中からゾルダの声がした。「遅かったのぅ、おぬし。 今日は全員服を着ておるから安心しろ。 入ってきても大丈夫じゃぞ」ある意味普通のことだが、安心して扉を開ける。中を見渡すと、相変わらずゾルダの横にベッタリしているマリーと大きく伸びをしているフォルトナもいた。「遅くなってわるい。 昨日デシエルトさんに昼に屋敷にこいと言われていたのを忘れていた たぶんそのまま次に向かうと思うから準備して行こう」そうゾルダたちに伝えると、皆が準備するのを宿の外で待つことにした。準備はすぐに整い、全員でデシエルトさんの屋敷へと向かった。時間も時間だったので、急いで向かうことにした。ゾルダは特に気にすることもなく「もう少しゆっくりでもいいじゃろぅ そう慌てるもんでもないのにのぅ そんなのは待たせておけばよ
宿屋についたワシたちは、食事をすませて、一息をつくことになった。あやつもひどく疲れたようで、ベッドに横たわっておる。小娘の娘も背伸びをしながらくつろいでおるわ。さて、ワシはどうしようかのぅ。食事の時に少し飲んだが、それではまだ足りん。もう少し追加で飲みたいのぅ。こっそり持ってきた酒を器に注いで飲み直しはじめた。そこへマリーがやってくる。「ねぇ、ねえさま。 ゼドっちのやつ、何を企んでいたのかな」そう言いながら、ワシの器に酒を注ぎ足す。「うーん。 まぁ、細かいことはわからん。 言えることは、ワシが邪魔じゃったということじゃろ」ゼドは野心を抱いていたには違いない。何かしらでワシを引きずり下ろす手立てを考えておったのじゃろう。「でもそれなら、真正面からねえさまと戦えばいいのに。 ゼドっちは卑怯なんだから」そう言いながらマリーは口をとがらせて怒っておる。「ワシに歯向かっても勝てんからじゃろぅ」あの時点でも負ける気はしなかったからのぅ。今も負ける気はしないがな。だから小細工するのもうなずける。ただ何故隙を見て殺すのではなく、封印だったのかのぅ。封印だとあとあと解かれるリスクがある。そのリスクをゼドが認めるのかどうか……あやつからすると、その少しのリスクも回避したがるはずだしのぅ。まぁ、ただ殺せぬほどワシが強かったということやもしれぬが……そんなことを考えておったら、マリーはワシの顔の目の前にきた。「あと……あの男はなんですの。 なぜあいつがマリーの兜を持つと、マリーが出てこれるの?」マリーはベッドで寝ているあやつを指さしてワシに疑問を投げかける。「へっ?」あやつがマリーの言葉が聞こえたのか、ベッドの上で起き上がった。「もう、お前はマリーの兜を絶対手放すなよ。 お前が手放したら、ねえさまにくっつけなくなるんだから」あやつがベッドから起き上がる拍子に、兜がずれそうになるのを見かねてマリーがつっかかていく。しかし、マリーは何故にあやつのことになるとそうつっかかるのじゃ。そう嫌うほどのやつではないんだがのぅ。興奮気味のマリーを落ち着かせながら、封印のことでワシが思いつくことを話はじめた。「まだ全然わからないのじゃが…… ワシは封印を解くためのカギがあやつだと思っておる」この世界で封印を行う場合は必ず解
ゾルダの正体の話もそうだけど、もう一人出てきたのはビックリしたなーただゾルダにベタベタしているマリーを見ていると、まずは出てこれて良かったなーと思う。これで一通りは終わったかなー前と同じでまた捕まってしまったのは良くなかったけど、結果オーライってことでーアグリも「まぁ、無事だったんだし、よかったんじゃないか。 一番の目的の人質救出は出来たんだし」と言ってくれたので、万事解決ーってことでいいかな。確かその後アグリもいろいろと話してたけど……「でも、前回もそうだけど、調子に乗って深追いはしないでくれ。 たまたま無事で、うまくいったからいいものの……」ちょっとブツブツブツブツうるさいんだよねー。うまくいったからいいじゃん。ただ心でそう思っても、アグリには悟られないように、反省の顔はしておこうーっと。一通りの小言が終わったアグリは、ため息をつきながら話し始めた。「気が重いけど、砦での状況も報告しないといけないし、 人質だったリリアさんたちも心配だし、イハルへ戻ろうか」人質はたぶん無事に戻れているはずだよね。何せ母さんの部下たちが動いているはずだから。今頃、捕まっていた領主さんたちも、解放されているはず。「砦の事はおいといて、人質はボクの母さんたちの部下もいるし、 無事街までたどり着いているんじゃないかなー」その話をすると、アグリはあぁ、あの時のという感じで思い出したような顔をした。「フォルトナは知っていたの? ここに突入する前に、背後で『ご心配なく』というので任せてきたけど……」「母さんならそうするかなーと思っただけ。 実際に会ってないし、来ていたのも見てないけど」ちょっと得意気な顔になったボク。さすが母さんだ。「ワシもひと暴れしたし、ゆっくり休みたいのぅ」ゾルダはけだるそうに伸びをしていた。マリーはというと、そんなゾルダを見て心配そうな顔をしていた。「ねえさま、さぞお疲れでしょう。 マリーがマッサージしてさしあげますわ」そうベタベタしてうっとうしく感じないのかなー、ゾルダは。ボクが気にしてもしかたないか。そしてアグリとボクとで一通り砦の状況を確認して、イハルの街へ戻っていった。街に戻ると、ボクたちは領主さんの家へ向かった。領主さんの家の庭先では泣いて抱き合う男性と女性と子供の姿が見えた。それを
たぶんこうなるとは予想出来ていたけど、なんか女の子が飛び出てきた。背丈としては小学生高学年から中学生ぐらいだろうか。青い目をして、青色の長い髪を両方で縛っている。所謂ツインテールだ。初音○クみたいな髪型だ。服装は黒を基調とした服に、レースやフリル、リボンがあしらわれている。現代で言うとゴスロリってやつだな。ゾルダが封印されている剣と似たような紋章がついたその兜には、どうやらゾルダの四天王の一人が封印されていた。名前はマリーと言うようだ。「ねえさま、ねえさま」甘えた顔をしてゾルダにベッタリとくっついている。ゾルダも悪い気はしていないようだ。「おぅ、いつ見ても、可愛いのぅ。 一人で怖くなかったか?」マリーの頭を撫でながら、ゾルダはマリーに問いかける。「暗くて、誰もいなくて、ずっと叫んでも返事もなくて…… もうあんなの懲り懲りですわ」眉をひそめたマリーが上目遣いでゾルダを見上げる。マリーはゾルダしか見ていないようだ。「あの…… マリー? でいいんだっけ? これに封印されていたってことは……」頭にのせた兜を見上げながら、マリーに確認をする。マリーは顔を膨らませ明らかに嫌だと感じる表情を浮かべる。自分の感情を隠しはしない。「そうよ。 マリーはねえさまの一番弟子よ。 人族からは四天王の一人と呼ばれているようですわ」やはりそうか。ゾルダの時と一緒の感覚を感じたし、ゼドに封印されたのだろう。「マリーはワシの一番弟子だったかのぅ…… 可愛さは一番じゃったが、実力は……」マリーが間髪入れずに言い返す。「そんなことないですわ。 力も他のみなさんにも負けてないですわ。 あれもこれもいろいろ…… マリーもいっぱいねえさまに尽くしていましたわ」ゾルダは目を細め、いつもより優しい声でマリーに話しかけた。「おぅ、そうじゃったそうじゃた。 マリーもワシの力になってくれたのぅ」マリーもゾルダほどではないが、力はあるのだろう。この俺なんかよりもよっぽど。「で、ねえさまは、このものたちと何をしいるのですか? ねえさまが人族と慣れ親しむなんて考えられないですわ」マリーは俺の方を向き、鋭い視線を浴びせる。なんかだいぶ敵視されているな、俺。「まぁ、いろいろあってのぅ…… 今はゼドを倒すために、あやつと行動を共にしてお
『……さま……ねぇ……さ……』『ねえさま……どこ?』ゼドっちにこの兜に封印されたのはどのくらい前だったかな。誰かに拾われたり、捨てられたりして、あちこちに行ったけど、ねえさまは見つからない。ねえさまも同じようにゼドっちにされたのかな。でもゼドっちのやつ、なんでこんなことをしたんだろう。あの時のことを思い出すとムカつく。もーっ。ねえさまが大変だからって言ったからついていったのにさ。それが罠だったなんて。ゼドっちのやつー。プンプン。あれから、あちこち放浪して、今はどこかの倉庫の中にいるみたい。自分では動けないし、まずは誰かに見つけてもらわないとね。ねえさまが見つけてくれないかな。しかし、いつもは静かだったこの場所もなんかそうぞうしい。何が起こっているのかな。「ドドドドドドドドド……」けたたましい音が響き渡ってきた。本当にうるさいったらうるさい。「ボフっ……ガラガラガラガラ」挙句の果てに建物が崩れ落ちる音がした。この倉庫も大きく揺れていた。「ゴン、カラカラ……」マリーが封印されている兜が床に落ちた。『痛っ……』これまで何度も経験しているけど、落とされると何故か痛みが走る。『何がいったい起きたんだ、もう』暗闇の中だと何もわからない。外で何かが起きているのだろうが、知ったことではない。とにかくここから早く出たい。物凄い轟音の後は、静けさに包まれていた。不気味なほどに静かだ。昨日までは、うるさくないにせよ、誰かが行き来する声や音が聞こえていたはずなのに。『もしかして、誰もいなくなった?』『マリーはここに取り残されちゃうの?」長い間の封印されて、誰とも話が出来ないのはやっぱりつらい。ねえさまが一番だけど、まずは誰かと喋りたい。そんなことを考えていると、扉の開く音がして、光が差し込んできた。そこに立っていたのは一人の男だった。ブツブツいいながら、装備を一つ一つ丁寧に確認していっている。耳を当てたり、手で軽く叩いたりしていた。しばらくすると、マリーのところに来た。聞こえないかもしれないけど、思いっきり声を出してみた。『助けてー』ビックリした様子の男はとっさに手を引いていた。何かを感じた男は、再度マリーの兜に触ってきたので、ねえさまのことを確認しようと思った。『……さま……ねぇ……さ……』
しかしここまで派手にやってくれると、俺の出る幕がない。楽して敵を倒せているんだからいいのだろうけど……これじゃ何のためにこの世界にきたのかわからない。ゾルダとフォルトナからは離れて一人でがれきの上に立った。こんなところを探しても何か出るもんではないと思うが……ただあの場には居づらかった。この世界に俺は必要とされていないんじゃないか……そんな考えもよぎってしまう。「俺じゃなくても世界は救われるんじゃないか」魔王だってゾルダが倒せばいいんだし……そんなに頑張らなくてもいいんじゃないかな。転移前の世界では周りに合わせて目立たないように生活をしていた。過度な期待をされても嫌だし……かといってきちんとやっていないとも思われたくない。普通にしていた……いや、頑張っても普通だったのかもしれない。それをいきなりこの世界に連れてこられて勇者に祭りあげられ期待されいつしかみんなの期待に答えなきゃと思って、気持ちが入り過ぎていたのかもしれない。でもどんなに頑張ったって、ゾルダの足元にも及ばない。これからは、そこそこ頑張って、あとはゾルダに任せよう。そんなことを考えながら、がれきを動かしては何かないかを見て回っていた。「おい、おぬし!」ゾルダが残っている砦のところから、俺に話しかけてきた。「なんだよ、ゾルダ」「今更かもしれんが、ワシと比べるなよ。 この世でワシと渡り合えるものなぞ、片手もおらん。 どうやっても追いつくのは無理じゃからのぅ」なんか見透かされたような言葉を放つ。「ただ、おぬしはおぬしなりに成長しておる。 そのままでいけばいいんじゃ。 あまり深く考えるな」確かにごちゃごちゃと考えてはいたけど、その物言いはないだろう。「何を急にそんなことを言い始めるんだ」「それはじゃのぅ…… おぬしとはなんとなくじゃが感覚を共有している感じがするのじゃ。 そのおぬしから、こう青い感じというか、こう滅入っている感じがしたものでな」確かにゾルダの気持ちというか感覚がたまに分かるときが俺にもある。それと同じ感覚なのだろうか。「…………」とは言え、言葉は出てこない。「ワシは特別じゃからのぅ。 敵わないからって、そう気に病むな。 世界中の人がほぼワシには敵わないからのぅ」ゾルダなりの励ましなのかもしれないが、ちょっと